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(1)日本 SF映画 「クローンは故郷をめざす」  監督・脚本 中嶋莞爾 2009・110分  [映画]

クローンは故郷をめざす」  監督・脚本 中嶋莞爾  製作2008年・公開2009年
クローンは2 ポスター.jpg


木々が影を落とし、霧が垂れこめる川原。
宇宙飛行士が暗い河原に横たわり、白い服の若い男性が近づいて来ている。 
水辺と孤独な宇宙飛行士とクローンとノスタルジー。
タルコフスキーを思わせる郷愁を漂わせたポスターに魅かれて観た映画だった。


双子の兄弟の兄の高原耕平(及川光博)は、おとなしい弟に比べ好奇心が強く、きかん気旺盛な少年だった。
母(石田えり)と3人暮らしだったが、耕平は弟の皿に自分が嫌いなニンジンを投げ込んだり、落とし穴を作って弟を落として喜んだりして、いつも母から叱られていた。
耕平は子供たちだけで川の中に入ってはいけないと言われているにもかかわらず、足まで水につかって釣りをしていた。
兄の耕平の姿が急に見えなくなったので、弟の昇があわてて川に飛び込み、溺れて帰らぬ人となってしまった。
兄の耕平は、水に流されたものの左手の甲に傷を負った位で助かった。
彼は長じて宇宙飛行士になる。

耕平は、双子の弟が亡くなってから「昇の分も長生きしてね。お母さんより先に逝くことは絶対に許しませんよ」と母からたのまれていたから、絶対に死ぬわけにはいかないのだった。

クローン 親子3人.jpg




★★★★★★★★★★以下、内容に触れています★★★★★★★★★★



安全体制は120%とっているはずなのに、ベテランの宇宙飛行士が事故に遭い犠牲者となった。
そのあと耕平は、実験体にされる危惧は感じていたものの、クローンになることを宇宙開発協会に承諾した。
 「誤解を受けやすいが、クローンは全く同じ状態で再生される生命保証で、いわば医療行為だ」 と研究所の影山所長(嶋田久作)から説得を受けた。
耕平の心の奥にあったのは、双子の弟を子供の頃に亡くした母の、「耕平は、お母さんより早く死んではいけませんよ」 と言ういいつけだった。


宇宙飛行士の耕平は、宇宙船外の作業中に不慮の事故にあい、突然亡くなってしまう。
妻の時枝(永作博美)は、夫の死を知った後、クローン再生の承諾書にサインをするように、宇宙開発協会から迫られていた。
迷っていた妻を影山署長は「(サインしなければ)もう二度と会えないのですよ。それでもいいのですか」と問い詰め、「御主人の意思でクローン再生は行われます。折を見て奥様にうちあけるつもりだったのですよ」と言われる。
妻は「亡くなったあの人の魂はどうなるのですか」と泣き続ける。
ここでは魂のことなどは問題にされない。

耕平は、クローン1号として再生する。
耕平が亡くなったのと時を同じくして、母も亡くなる。
クローン1号の耕平は、2日間意識が戻らず、記憶障害を起こし妻のことも分からなかった。
記憶にあるのは故郷の子供の頃のことだけだった。
クローン1号の耕平はベットで眠っていた間に2日~3日で緩慢に死んでゆく投薬注射をうたれてしまう。
景山所長たちは記憶障害を起こした耕平のクローン1号を抹殺したのだった。
科学者(研究員)たちは耕平のクローン2号を作る。


クローン1号の耕平が椅子に腰かけているとある音が聞こえてくる。
幼いころ母がコップに水を入れてコップの縁を指でなでると音が鳴り始めた時の音だ。
グラスハープの音)
オリジナルの耕平の魂とクローン1号の耕平に共鳴が起こったのだ。
魂と魂が共鳴した音としてユィ~~ン(びぃ~~ん)と言うグラスハープの音が静かに鳴り響きあたりに広がる。


研究所を抜け出したクローン1号の耕平は、故郷の田舎に向かう。
河原の上空に、宇宙服を着た宇宙飛行士(オリジナルの耕平)が浮かんでいる。
河原の前方を見ると宇宙飛行士が横たわり中を見るとオリジナルの耕平がいる。
記憶障害を起こし、子供時代の記憶しかないクローン1号の耕平は、宇宙飛行士を幼い時に亡くした双子の弟だと思ってしまう。
雨の降りだしたススキの原や世界の果ての荒野に続くような原風景の中の一本道を、クローン1号の耕平は、宇宙飛行士を背中に担いで故郷へ向けて帰って行く。

クローン 河原ノ2人.jpg

クローンは 2が1を背負う.jpg


<次回の登場人物>
1)オリジナルの耕平(亡くなっている)
2)記憶障害を持った耕平のクローン1号(オリジナルの魂と共鳴する)
3)全ての記憶を持ったクローン2号(初めのうちはオリジナルの魂と共鳴しない)
4)孫娘の死後、孫娘のクローンを作り、魂との共鳴を研究していて監禁された老科学者(品川徹)
5)宇宙開発協会の影山所長(嶋田久作)
上記の人々のことは、「クローンは故郷をめざす」(2)に続く~
老科学者 勅使河原(品川徹)の共鳴や成仏についての話は興味深い。


~~~「クローンは故郷をめざす」(2)へ続く~~
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うずのしゅげのとっかかりシリーズ(1) 本「邪悪なものの鎮め方」  著者内田樹   現代的霊体験とのお付き合いの仕方  [本]

<うずのしゅげのとっかかりシリーズ>(1)続く

邪悪な者の鎮め方  著者内田樹  木星叢書
内田樹(2).jpg


内田樹 「よくわからないものがあってもいいじゃないですか、別に」
著者の弁
理論ではうまく説明できない事例に出会えば、興味を抱きこそすれ、無視したり、無理やり既知のものと同定したりはしない。
~略~ 私がタレントの霊術師のような方々を好かないのは、彼らが「話を単純に固執する点において、彼らの対極にある「科学主義者」と双生児のように似ているからである。
「水子のたたりです」とか「トイレの方角が悪い」と言うチープな物語に回収され、それで救われる人がいればそれは正しい治療法だったことになる。
だが一時しのぎはあくまでも一時しのぎであり、(医者が小麦粉を睡眠薬だと言って患者に渡すのと同じで)一般化すべきではない。
宗教体験のもたらす最大の贈り物は、それについて簡単な説明を自制することによって、「人間の出来が良くなる」ことである」


尊敬する先達に治療師の池上六郎先生がいる。
外国航路の航海士として世界各地で「何がなんだかわけのわからない経験」を山のようにしているが、「分からないことがあっても気にしない」。
奇怪なる霊的グッズに対しても「でも、いいじゃない。効くんだから」と笑っている。
先生の治療理論はドアが開いている。
「説明できないものは無視する」のでも、「説明できないものを無理やり説明して見せる」のでもなく「説明できないものは説明しない」と言う節度が先生の思想と技法の科学性を担保している。
実験と仮説に対するこの開放的な構えのことを「科学的」というのだと私は信じている。

続く~
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「月に囚われた男」イギリス映画   監督 脚本 ダンカン・ジョーンズ [映画]

月に囚われた男 日本公開2010年
監督 脚本 ダンカン・ジョーンズ (父 デビット・ボーイ)
月に囚われた ポスター.jpg



近未来。
地球の燃料が底を突いたので、月の燃料を採掘するため、韓国系のルナ産業がサム(サム・ロックウエル)と、人間を徹底的に守護する有能なロボットを月に派遣した。
無音の月空間。
月に囚われた 月面の装甲車.jpg



★★★★★以下、内容に触れています★★★★★★★★★★



計器だけの並ぶ室内で3年契約で1人で働くサムは、ルナ産業によって、何人もの自分のクローンが造られていることを知らなかった。
元祖サムは契約期間中に事故で亡くなってしまう。


クローン1代目のサムの記憶は元祖サムと同じで、あと2週間で地球に送り返されるのをこころ待ちにしていて、電送されてきた妻と2才くらいの娘のビデオレターを見ている。
クローンたちには地球上で妻と暮らした記憶はあるのだが、妻との現実体験はない。
月に囚われた 家族の写真.jpg


クローン1代目のサムが病気にかかり悪夢にうなされている時に、ルナ産業側がクローン2代目を出してきたので、1代目と2代目は室内でばったり出くわしてしまう。
クローンは地下にまだ何人も準備されており、待機していた3代目もむくむくと起き上って来る。
その映像から来る恐怖と驚きはたとえようがなかった。
死期を悟ったクローン1代目のサムは、クローン2代目のサムが地球に帰る手助けをする。
地球に帰りたいと言う元祖サムの願いの記憶がどのクローンにもコピーされている。


月に囚われた 家に帰りたい.jpg

クローン1とクローン2の2人は、共通の脳内の記憶を話題にし、そのことでさらに盛りあがって地球に帰りたいと言う意志をふくらませる。
サムのクローンたち1代目2代目3代目・・・には、元祖サムのクローンが作られた地点までの記憶しかコピーされていない。


日本映画に「クローンは故郷を目指す」と言うのがあった。
ロケットの外の作業事故で亡くなった男がクローンになることを承諾していたので、彼の死後クローンが生み出される。
クローンになる前の人間の魂が時空を超えて、幼年期の故郷や、現在の故郷に何度も帰ってくる。
同じ人間のクローン100人の魂は1つなのだろうか?
造られたクローンは肉体をもって故郷の廃屋に帰り、くずおれるように倒れて死ぬ。


クローン1代目サムは、採掘以外は室内から出ることや、地球の妻に電話をかけることをルナ産業から禁止されている。
しかしサムたちの意志を尊重してくれるロボットの心配りがあるので、自由な行動をすることができていた。
瀕死のクローン1代目が地球に電話をすると、妻は亡くなっており娘は17歳に成長していた。
時間の経過が1代目のクローンと2代目のクローンの間に15年以上もある。
推測だが、妻は何かの事故で死んだのではなく、ルナ産業側から殺されたのではないだろうか。
会社側は永久的に月の採掘を元祖サムのクローンを使ってやるつもりなのだ。


元祖サムが死んだあとの、脳内記憶だけで連帯しあうクローンの男たちの友情と、人間とロボットの友情。
この世に生まれたその人は、唯一のその人だけであって取り替えはきかない。
地球に帰った2代目のサムのクローンが法廷の証言台に立ち、ルナ産業は廃業となる。


☆最近見た劇場公開映画
  「ジェーン・エアー」
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ほんわか江戸グルメ  雑学コミック 「大江戸 酒道楽」 酒と花の歳時記    ラズウェル細木  [漫画(コミック)]

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著者 ラズウェル細木 リイド社


目次 三十一話「ねぎま鍋」 (三十四話中)

三度の飯より酒が好きな大七(だいしち)は、酒を担いで売ってまわって生計を立てているが、商品に手をつけては、かみさんのお福久に怒られてばかり。
寒くなれば、「ちょっと おもての山茶花でも見習いなよ。寒い中でがんばってきれいな花咲かせてサ」 などとかみさんに尻を叩かれて商いに出てゆく。
夕方から寒くなって来たので、いつもの店で、かみさんには内緒でねぎま鍋で一杯やることにした。
ねぎま鍋は、ネギが主役で、まぐろの腹身(トロ)が入っている。
その頃は赤身が珍重され、トロは安価だった。
「鍋に熱燗、こいつぁ堪えられねえや」と言ってネギを口に入れたとたん、ネギ鉄砲をくらってしまう。
アツアツの芯が勢いよく飛び出し、「 飛び道具は御法度だぜオヤジ 」 「 討ち死にしねえでよかったな 」などと軽口をたたいているうちに、時がのんびり過ぎて行った。
「あとはサラサラっと茶ずけでも」と思いながら家に着くと、かみさんが作ったねぎま鍋がぐつぐつと音を立てているのであった。

☆江戸時代の酒売りが売った酒名  高級清酒は諸白(もろはく)、濁り酒は中汲み(なかぐみ)と言った。
   売る時の声は「もろはく~  なかぐみ~」だった。
   ふっくらした人情豊かなお話が満載。狐に化かされたり、ふぐを恐る恐る食べたりしていた。もちろんくじらも。
   特別収録付き (戦国食噺 二代目服部半蔵)
   特別コラムも面白い(江戸名所図会・呑み助花暦・大江戸花図鑑・大江戸食図鑑)



大江戸 美味草紙 上巻(二十一話~)  著者 ラズウェル細木 リイド社
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大江戸 美味草紙  下巻(~四十二話)著者 ラズウェル細木 リイド社
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大江戸 美味草紙(下巻)二十四話 桜鯛

江戸のべストセラー作家のお花と、地本問屋の旦那の夫婦がくりひろげる粋で美味しい食と遊びの歳時記。
食の原点は江戸にあり。

江戸の桜の頃、料亭には今日に限って桜鯛が一尾も入荷しなかった。
材木の商いで大もうけをした旦那が、今朝がた魚河岸で上がった桜鯛を買い占めてしまっていたからだ。
「やることが下品じゃな」、「無粋極まりない」と言っていた旦那衆も、材木商の席に呼ばれての大盤振る舞いに大喜び。
「今日はここでしか桜鯛にお目にかかれない」となってはもうなしくずし。
余興の料亭の2階の座敷からの、餅まきならぬ鯛まきにも大満足であった。


★ラズウェル細木 その他著作多数。(未読につき未紹介)

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私の名作 映画「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」   故郷ヒメネスのあまりの美しさに心が張り裂けそうだ    埋葬の旅   監督と出演 トミー・リー・ジョーンズ 2005年制作 [映画]

監督・出演 トミー・リー・ジョーンズ
2006日本公開  122分
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メキシコ国境に近いアメリカのテキサス州の見回りに出た国境警備隊員のマイク・ノートン(バリー・ペッパー)は、農園に来たコヨーテ(もしくはジャッカル)を射殺しようとしたメキシコ人メルキアデス・アストラーダ(フリオ・セサール・セディ―ジョ)から射撃されていると勘違いし、彼を誤射し殺してしまう。
国境警備隊員のマイクは、メルキアデス・アストラーダを砂漠に埋め、事故を隠蔽してしまおうとする。(第1の埋葬)



★★★★★  以下、内容に触れています  ★★★★★



メルキアデス・アストラーダの遺体をジャッカルが掘り起こし、遺体の身元や犯人が分かってしまうが、国境警備隊は身内のマイクを不問にし、ふたたび砂漠に埋めてしまう。(第2の埋葬)

カーボーイのピート・パーキンス(トミー・リー・ジョーンズ)は、埋葬されたメキシコ人メルキアデス・アストラーダの親友だった。
メルキアデス・アストラーダから「もしも先に自分が死んだら、故郷のヒメネスに埋めて欲しい。家族とは5年会っていない。子供が3人いる」と家族の写真を見せられていた。

向かって左 メルキアデス・アストラーダ 
右カーボーイのピート・パーキンス(トミー・リー・ジョーンズ)
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カーボーイのピート・パーキンス(トミー・リー・ジョーンズ)
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誤って人を殺してしまった苦しみと悪夢の日々を過ごしている国境警備隊のマイクは、カーボーイのピートに犯人だと言うことを知られ、家に押し入られて連れ出され、メルキアデス・アストラーの遺体を掘り返すように命令される。
遺体をロバや馬に乗せ谷を越え砂漠を越えるヒメネスまでの旅が始まる。


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遺体は、蟻にたかられ、アルコールを注がれ、故郷ヒメネスに向う。
砂漠地帯で1人暮らしをしている盲目の老人は、食料を運んでくれていた町に住む息子が癌になり、1人取り残されている。
「宗教上自殺は出来ないので、わたしを殺してくれ」と言われるが、 カーボーイのピートは「それは出来ない。犯罪者になるので 」と断わる。



メルキアデス・アストラーが、家族と写っていると言って見せてくれた写真は、他の家族と写った写真だった。
カーボーイのピートは、ヒメネスと言う名のついた場所は地図上にはないことを知らされる。
親友がヒメネスと呼んでいた場所は、きっとあると信じ、あきらめずに、とうとう想像に描いていたヒメネスを探し当てることが出来た。
カーボーイのピートが体感し、さぐりあてた場所はヒメネスに違いない。
ヒメネスにメルキアデス・アストラーの遺体を埋葬する。(第3の埋葬)

ガラガラヘビに噛まれ、昔殴りつけたメキシコ人の女性に助けられた国境警備隊のマイクは、墓の前で、許しを乞い、カーボーイのピートに「好きなところへ行け」と言われて解放される。


ヒメネスは、二つの丘の間にある美しい町
そこにいると山を抱けるような気がする
川からは澄んだ水がきらきら光って湧きいでている
あまりの美しさに心が張り裂けそうだ


最近見た劇場公開映画
1)「スノー・ホワイト」   2)「私が、生きる肌」   3)「メン・イン・ブラック」  4)「新しき土」(原節子)   5)「ガール」  6)「ミッシングID]

 
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【私の名作】 映画「山のあなた 徳市の恋」 按摩(あんま)の盲目の恋 見えない目でずっとあなたを見つめていた  [映画]

「山のあなた 徳市の恋」(94分 2008年5月) 監督 石井克人 
清水宏監督「あんまと女」(64分 1939年)のリメイク版。


按摩の徳市 (草薙剛)
女客 三沢美千穂(マイコ)
山のあなた ポスター.jpg
★撮影は伊豆市で行っている


按摩の徳市(草薙剛)と福市(加瀬亮)は、青葉のころに南の温泉場から山の温泉場にやって来て、寒くなると南の温泉場に帰っていた。
徳市((草薙剛)は、按摩の中でも特に勘が鋭く、温泉場に向かう山道を走る馬車に、男女や子供が何人乗っていたか、すれ違う人々は何人で背負った赤ん坊を入れると8人半だと言い当ることが出来るのだった。
2人は、目あき(目の見える人)を何人追い越したかを自慢にするほど健脚だった。
「日のあるうちに着きたいが」「年から年中夜ばかりじゃあねえか」などと話しているうちに宿に着いた。
按摩たちは鯨屋と観音屋で働いており、徳市は、いつも世話になっている女中のお菊さんに「皆に内緒ですよ」と言って椿油を渡す。
それを聞いていた仲間の按摩たちが、「 ないしょ ないしょ ないしょ 」とつぶやき始め、「 ないしょですよ~」と合いの手を入れ、「ないしょですよ~ ないしょですよ~ ないしょですよ~」 と歌うように呼応し始め、部屋の中から出て道を歩くまで続く。
西洋から来た輪唱でもなく、相手の呼吸を聞き、声を聞いての不思議な呼びかけあいだった。
道を歩く時は、「ないしょですよ」と声をかけあい、人数が多い時は、相手の肩に手をかけて歩いて行く。
ゆったりとした時間が流れているひなびた温泉。
そよぐ草や川の流れや吹く風、雨や雲の流れに浸かっていると、時間が静止しているように感じられる。

按摩たち
山のあなた 按摩たち.jpg



★★★ ★★★ 以下内容に触れています ★★★ ★★★



徳市(草薙)と美千穂(マイコ)
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徳市は今日馬車で鯨屋に着いた女客の美千穂(マイコ)に呼ばれる。
美千穂は、東京から来た泊まり客の男大村(堤真一)とその甥の研一(小学生)とも仲良くなる。
美千穂はやさしいしぐさで、研一の涙をふいてやったり、裏返しになった徳一の着物を着せ代えさせてやったり、大村(堤真一)とは、「東京に帰ったら銀座あたりで、ばったりあうかもせれませんね」「いえ私は他の場所に行くかもしれませんよ」などと、離れがたくなるような会話を橋の上や川のほとりで交わしているが、もう一歩と言うところで、取りつく島のない噛みあわない会話だった。
逗留を1日延ばしにしてもいられなくなり、手紙を書くと言う研一の声を残して大村と研一は東京へ帰ってゆく。
走り去る馬車が見えなくなるまで、美千穂は下駄で走って追いかける。
美千穂には、どんなことがあっても自分を信じてくれる、がむしゃらで率直な愛情が必要であった。


左から 大村  美千穂 研一少年
山のあなた 少年 美千穂 おじ.jpg

美千穂(マイコ)
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鯨屋と観音屋でお金が盗まれるのは3回目である。
その時にいつも美千穂が宿にいたことで、彼女はひそかに皆から疑われている。
警察が宿の泊り客を調べていると言うことを聞いた徳市は、人にぶつかりながら美千穂の所に駆けてゆき、彼女を逃がそうとするが、それはとんだ間違いだった。
美千穂が何かから逃げようとしていることと、金銭を盗んだ犯人であるむと言うことは何のかかわりもなかったのだ。
美千穂は自分の名誉が傷付けられたことを怒らず、徳市がむしろ自分のことを気にかけてくれたこと、駆けつけて来て逃がそうとしてくれたことに対して心を開くのだった。
美千穂には旦那がいて、その奥様やおじょうちゃんに申訳ないと思うので、旦那と関わりを絶ちたいために東京から逃げて来ていたのである。
人の足音やラッパの音にびくびくしていたのは、どんなことをしても捜しだそうとする旦那のけだもののような眼に恐怖を感じているからである。


美千穂が温泉場を立ち去ろうとする日に、泥棒は捕まる。
やがて美千穂は馬車に乗り、次の逃亡場所に移ってゆく。
馬車に乗った美千穂を、見えない目で見つめ、馬車の音を聞きながら、追いかけてもどうにもならないのに思わず走って追いかけてゆく切ない徳市だった。


1939年 清水宏監督「あんまと女」(64分)
高峰三枝子(美千穂)  佐分利信(大村)
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高峰三枝子(美千穂) 徳市(徳大寺伸)
山のあなた 徳大寺伸.jpg
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想像力の開放 空間の(虫食い)に存在するほのぼのファンタジー  「菱川さんと猫」 漫画 萩尾望都 ・ 原作 田中アコ [文芸コミック]

★説話や草子や・・・譚や漫画やアニメのファンタジーの世界から生きる力をもらって帰って来よう。


「菱川さんと猫」 漫画 萩尾望都 ・ 原作 田中アコ  
講談社2010年22日9月

目次(3作品とも人間に化けた猫や魚が出てくる)
漫画の場所は穴森市
(調べて見ると穴森市は存在しない。穴森神社(竹田市)と大字穴森(別府市)は存在する。

1)菱川さんと猫
2)ハルカと彼方(前編・後編)
3)十日月の夜
菱川さんと猫.jpg


1)菱川(ひしかわ)さんと猫
高野白湯(たかのさゆ)が、お正月の休み明け会社に行くと、菱川さんの席に(菱川さんのかっこうをした)猫がいた。
猫が菱川さんに化けているのだが誰もそれを見破れなかった。
高野白湯(たかのさゆ)には、人の見えないものを見る能力が備わっていた。
独身の菱川さんはお母さんを亡くした後、一人暮らしをしていたが、体(心臓)も弱かった。
猫が化けることについては何の言及もなく、当たり前のこととして物語は流れてゆく。
猫の名前はゲバラ、彼が言うには、人間の菱川さんはお母さんと2人でキューバ観光にでかけたらしい。
雪国に住む菱川さんは、半日かけて雪かきをし、一息ついて座り込んだまま動かなくなった。
生前の菱川さんに時々ゴハンをもらっていた猫のゲバラは、菱川さんの体を雪でおおった。
3月の初めのあたたかくなった日、高野白湯はスコップで菱川さんを掘り当てることが出来た。
高野白湯は、普通の猫に戻ったゲバラと道で会った時に「ひげを引っ張ってごめんね」と言う。
賢治の「セロ弾きのゴーシュ」の時も、ゴーシュは、演奏がうまく行った夜、小屋に帰って来て、辛くあたった猫やカッコウや子供のたぬきや野ネズミの親子を思い出す。
ゴーシュは、「ああカッコウ。あの時はすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃあなかったんだ。」とあやまるのだが、ごめんねと言う気持ちには共通してほろりとさせられる。


2)ハルカ(羽流化)と彼方(前編・後編)
幼いころ交通事故で両親を亡くした兄(鳴海羽流化 ナルミハルカ)と妹(鳴海彼方 ナルミかなた)は魚族の血をひいている。
鳴海彼方(ナルミカナタ)は高野白湯(たかのさゆ)と、高校時代の同級生である。
兄(ハルカ 羽流化)は、水槽に魚を飼い、その魚を狙って化け猫のゲバラもやって来る。
兄(ハルカ 羽流化)は陸で生活するのが困難になり、海に戻ってゆく。
化け猫のゲバラは、兄の羽流化(ハルカ)の名前を見て、「化け字」ですね、「羽流化(ハルカ)さんは、魚の化けだ」と言う。
海に帰る兄の羽流化(ハルカ)を追って海に入る彼方と高野白湯は人魚に変身する。
兄の羽流化(ハルカ)は、深海魚のリュウグウノツカイになって海に消えてゆく。

深海魚 リュウグウノツカイ
最大11メートル~12メートルになる
リュウグウノツカイ.jpg



3)十日月の夜
妻が病院で今日明日にも出産するかもしれない会社員、須々木秀一郎(すすき しゅういちろう)が、不思議な屋台でまたたび酒を飲んだ後、ある横町にまぎれこむ。
化け猫のゲバラが、待ち構えていて2人は神社で酒盛りをする。
須々木秀一郎(すすき しゅういちろう)のは母は、「勉強していい大学に行くのよ」と毎日のようにがなりたて、秀一郎が拾ってきて育てている猫(ベロニカ べろを出すので)を捨てるように命令する。
秀一郎は母の期待にこたえるために、猫のベロニカを公園に捨てに行き石を投げる。
ゲバラやシマ吉に、猫のベロニカの信頼を裏切ったことについて責められ、猫にさせられそうなる。
秀一郎は、不思議な空間でベロニカに会い、謝り続ける。
妻の声が聞こえ目が覚めると、秀一郎は神社にいた。
妻は陣痛室の壁に夫がずっとはりついていたと言う。
空間の虫食いにまぎれこんだ時のお話。


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【私の名作 】 1人の少年のための対話の持続  映画「12人の怒れる男」(ロシア映画)  日本公開 2008年 [映画]

ロシア映画「12人の怒れる男」(現代版) 159分
監督ニキータ・ミハルコフ
日本公開 2008年8月
アメリカ版(1957年) 「12人の怒れる男」のリメイク版


12人の怒れる男 ポスター.jpg


12人の怒れる男と言うのは、12人の陪審員のことである。
ロシア軍の将校だった養父を殺した罪で、チェチェンの少年が第1級殺人の罪に問われていた。
(ロシアが、チェチェンの独立を認めないため、しばしば劇場や学校で紛争が起こっている)

★★★初めから最終的な内容に触れています★★★ネタばれ★★★



アパート建設に絡む地上げ行為をもくろみ、利益を得ている者たちがいた。
チェチェンの少年の養父は、アパート建て替えで、立ち退きに従わなかったため、マフィアがらみの犯罪組織に抹殺されたのだった。


市民の中から選ばれた12人の男性が、評決を下すために、陪審員室が改造中だったため、小学校の体育館に集まった。
初めは形式的な挙手をしたらいいだろうと言うくらいの軽い気持ちだった。
全員一致で有罪もしくは無罪にしなければならなかった。
検察側は最高刑の終身刑を求めている。
初めは12人中、11人が有罪、1人が無罪を主張した。


チェチェンの少年を有罪にすることに同意できない、たった1人の男性の理由は、「結論を出すのが早すぎないか、挙手をするだけで有罪、無罪を決めて終わりにしてもいいのか」と言う指摘だった。
この意見が後ほど、殺人を犯していない少年を助ける方向へと向かわせる。
この男性は、新型ダイオード(半導体)の発見者で研究員だったが、企業に相手にされず、自暴自棄になり、路上生活者になった体験を持っていた。
彼は、子供を連れた1人の婦人が、「あの人は変な人ではなくて、さみしいだけなのですよ」と子供に言って聞かせるのを聞き、立ち直れた体験があった。
それ以来、彼は、マリアとイエスの小さな聖画を持ち歩いている。

携帯電話を一時預かりにされた後、長い長い話し合いが展開される。
12人が12人とも辛い過去の体験談をあぶり出されるようにして話し始める。

映画の上映時間は、延々2時間39分。
ニキ—タ・ミハルコフ監督自身が、12人の陪審員役の1人として映画に登場している。
彼は、元将校で引退後に画家となり、陪審員会では司会をつとめている。

チェチェンの少年は、上から2列目の向って左から2人目。有罪になれば終身刑。
ニキ—タ・ミハルコフ監督は、上列の向かって左から2人目。
12人の怒れる男 12人並んだ写真と少年.jpg


男たちの職業は多様である。
1)息子に折檻をしていたタクシードライバー。
2)父がドイツ将校の妻と恋に落ち、奇跡的に結婚できたことを恨むどころか、そのことを素晴らしい奇跡として認めて受け入れているユダヤ人。
3)墓地の管理責任者の男は、墓地に仕掛けをしてわざと被害をこうむらせ、遺族から高い手数料を取ってホームレスの慈善や学校設立や自分の嗜好品を買うことに費やしている。
4)旅芸人は、何でも軽く笑ってごまかすか、受け流すかして、お笑いにして済ませてしまう人々をののしる。
旅芸人の笑いの原点は、瀕死の祖母を笑わせるために、助けが来るまでの間、必死で形態模写をして、祖母を笑わせた経験からくる。
5)医者である男は、殺人罪に問われているチェチェンの少年と同じ出身地であり、犯行に使われた美術品的なナイフを、ステップを踏みながら踊るようにして見事に使いこなして見せる。
「ナイフは国の文化だ。心臓を一突きにするのが自分たちのやり方であり、一突きにしていない少年は犯人でない」と言う。

話し合いのなかばから、1羽のすずめが外からバタバタと飛び込んで来て、羽を休めて立ち止まったリ、男たちの周りを飛び交う。 時々カメラが遊ぶすずめを追いかけるので、男たちとすずめの対比が面白い。

有罪1、無罪11となり、少年が無罪になりそうになった時、1人だけ有罪を主張した司会者の陪審員長が、「有罪になり牢獄に入った方が安全だ、釈放されたら行く所もなく、住む家もなく抹殺される恐れがある」と述べる。
しかし最後に全員無罪の評決を下す。
判決後は陪審員長が、多忙な男たちに代わって、少年の身元引受人になり面倒をみることになった。


閉じ込められたすずめはどうなった?
新型ダイオード発見者で今は、日本と合弁会社を作っている男性が、体育館に忘れたマリアとイエスの小さな聖画を取りに戻った際に窓を開け、「とどまるも飛び立つも自分で選べ」とすずめに言う。
信仰を持っているとは思えないが、マリア的な母性が世界には必要なことを教えてくれる。


オリジナル版(1957年)米 「12人の怒れる男」
監督 シドニー・ルメット   写真 ヘンリー・フォンダ
12人の怒れる男 アメリカ(米)1957.jpg

★陪審員の中に女性がいないのはなぜ?妻や母として男性を助ける女性しかでてこない。
★この世に起こる人間的なすべての事柄とその原因が、全部詰まっているような見応えのある映画だった。
会話の重厚さには完全に満足を得た。
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(2)底にあるものは異形や老いへの恐怖  楳図かずお原作  映画「おろち」 監督・鶴田法男 [映画(原作コミック)]

映画「おろち}  監督 鶴田法男 107分 脚本
原作(コミック)楳図かずお 小学館

谷村美月(おろち・佳子の2役)
木村桂乃(母の門前葵・娘の門前一草の2役)
中越典子(門前理沙)
おろち ポスター.jpg


映画「おろち」(2) 前回(1)からの続き
たとえれば戦士の休日のような朝、小鳥たちのつややかな高音のさえずりに交じって、とぼけたカラスの声が聞こえる。
カラスの声を目指してゆくと地面には人や獣の死体がある。
容姿の崩れが29歳すぎると始まる受難の門前家の姉妹、姉の一草(かずさ)と妹の理沙は、毎朝鏡を見ながらおびえ、鳥たちの声を死刑の宣告のように聞いていたに違いない。


母のいまわのきわの遺言を聞いたのは、妹の理沙だった。
理沙の説明によると、母の遺言では姉の一草だけが、29歳を過ぎると容姿の崩壊が起こる門前家の血を受け継いでおり、妹の理沙はもらい子だった。
この地点で優しいものの言い方をする理沙を疑う者は一人もいなかった。



★★★★以後ネタばれ★★★★

おろち 2人の戦い乃様.jpg

それを聞いた姉の一草(かずさ)は自分の運命を呪い、妹の理沙を妬んで、理沙が運んできたコップの水を理沙の頭にあびせ、髪をつかんで引きずりまわし、殴るけるなどの乱暴を働いた。
家具にもめちゃくちゃに当たり散らし、自分の容姿が崩れることしにしか関心がなく恐怖におののいている。
家政婦のよし子(谷村美月)と、門前家を見守るおろち(谷村美月)の2役の同時間上の登場で、観客は先の予測がつかず、展開への強い興味からイスから携帯などの用事で立てなくなる。
予定調和とは程遠い結果が現れることに期待し、それが充分に報われるであろうことをひそかに予想しているのだ。


よし子の血と姉の血を入れ替えれば姉が助かると、異様な個性を持った執事の西条(嶋田久作)に聞き、やさしく装われた妹の目に妖しく残忍なベールがかかる。
姉も妹も執事も獲物を狙う蛇になるのだった。。
しかしよし子が姉の一草と同じ血液型だと言うのは、よし子がお屋敷で働きたかったためについた嘘だった。
血液型が合わなかった姉は輸血の途中で苦しみもがくが、かろうじて助かる。
よし子は姉の一草に突き飛ばされて階段から落ちて死ぬ。


姉の狂気はすさまじくなり、誕生日が来る前に、自分で額や頬に焼け火箸を押しあて、自ら醜い顏になるのだった。


思慮深く優しそうな妹の笑いが、勝利を得た者の高笑いにだんだんと変化してゆく。
妹の理沙がみんなにかくしていた姉妹にかかわる重大な秘密がそろそろわかってくる。
本当は妹の理沙のほうが、門前家の血を受け継ぎ、29歳で顔の形が崩壊してゆくのだった。
姉の一草は貰われてきた子供で、門前家の血は受け継いでおらず、何事も起こらないのだった。
顔に焼け火箸をあててしまった姉の一草は見るも哀れに絶叫する。


お屋敷の暗がりで、29歳を過ぎ顔が崩壊した妹の理沙と、焼け火箸で顔が醜くなった姉の一草が老婆のようにうずくまって暮らしている。
おろちは静かに見るべきものを見て西洋館を立ち去ってゆく。


★なぜ、このようなお話が必要なのか。誰にとって必要なのか。
葵や一草や理沙を哀れに思いつつ、そら見たことかと溜飲を下げるのは女性たちなのだろうか?
いつも主役を取る美しいけれど傲慢な女優(葵)や、その美貌を受け継いだ何不自由のないわがままな娘が、最高の痛々しい宿命を背負っていることが分かって初めて、人々は彼女たちを許せるのだろうか。


コミック「おろち」4巻(小学館)より
窓辺のカーテンに隠れるおろち  画・楳図かずお
映画「おろち」は、コミック1巻の「姉妹」と4巻の「血」をミックスさせて作られている。
コミックおろち 4巻2.jpg
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(1)美しい姉妹のだましあい 楳図かずお原作  映画「おろち」 監督・鶴田法男  [映画(原作コミック)]

おろち ポスター.jpg
監督 鶴田法男  脚本 高橋洋 2008年 107分
原作コミック  楳図かずお1巻~4巻(小学館)
谷村美月(おろち・佳子)
木村桂乃(母の門前葵・娘の門前一草の2役)
中越典子(門前理沙)

「おろち」と言うのは、大蛇のことで超能力を持った美少女の名前。
おどろおどろしい名前は、美少女にはふさわしくないが、並々ならぬ暗黒の中でのたうちまわるさまを見れば、暗い底力を持った瞬発力のある大蛇とはよく言ったものだ。
おろちは、人間になって100年間不老不死の肉体を維持することができるが、その後疲労すれば回復させるためにしばらくの間(20年間)眠りにつく。

美少女おろちは、草木の黒い影が揺れるあらしの夜の風雨を避けるために、西洋館の門前家に足を踏み入れる。衣装は赤い色。

おろち 谷村美月
おろち (2)小.jpg

そこでは残酷な運命を背負わされた2人の姉妹、姉の一草(かずさ 木村桂乃)と、理沙(中越典子)、元医者の召使い西条(嶋田久作 帝都物語)、3階に住む病に伏した母親(葵)が暮らしている。
門前家の女に背負わされた運命とはいかなるものか。


おろちは超能力を駆使し、深い関わりをもって人の惨劇に介入し、助力を惜しまず、ことがおさまると立ち去ってゆく。
人の不幸を黙って立って見続けるだけの傍観者の群れを描いた映画「ギヤザリング」のような意味では、悪魔的に不気味ではない。がしかし。
楳図作品にはおなじみの、プラズマ渦巻く昼なお暗き空が、物語の行く手を暗示している。


美少女おろちは、嵐の夜、門前家(もんぜんけ)にたどり着き、人に見られずに、部屋の暗がりや、カーテンのうしろから、門前家の女優の母親や仲のよい少女姉妹を眺めつづける。
勘が鋭いおろちが滞在すると言うことは、足を止める理由があるわけだが、門前家には、1歳違いの少女姉妹、姉の一草(かずさ)と妹の理沙がいる。
母親は有名女優で、主演の映画を撮らせるような美貌の持ち主であるが、いつも何かに脅えていて、周囲の者に言いがかりをつけ絡んでは、毒ずいて突き放すようなヒステリックなものの言い方をする。


★★★★★★★★
内容が少し明かされます(ネタばれ)

門前家の秘密とは、女が29歳を過ぎると美貌が崩れ始め化け物のような顔になってゆくことだ。
額の隅に粒状のみにくいできものが現れ、いずれ全身に増殖してゆく。
今は指にも同じものが現れている。
門前家の女性には、生やさしい慰めや説教はかえって不安をあおりたてることになる。
おしきせの理屈など一切通じず、きれいごとは一笑にふされる。

29歳の誕生日に、できものの兆候に気付いた女優の葵は、酒をあおり、狂ったように車を運転し、お屋敷に続く道を暴走する。
美少女おろちは、車の横に飛び乗り、車をとめようとするが、2人とも崖下に転落してしまう。
腕を怪我し血だらけになったおろちは、急に眠気を催し、自分の肉体を野良犬などから守るために、安全な場所を捜している途中、洞窟に落ち込む。おろちが眠っている間に20年の歳月が流れる。


桂子(よしこ)は、酒場を流して歩く夫婦の血のつながらない天涯孤独な娘として、ギターの伴奏で「新宿烏」(しんじゅくがらす・楳図かずお作詞)を歌い歩く毎日を送っている。
女優の谷村美月が桂子とおろちの2役をやっている。
おばさんは日頃の不幸を、暴言を吐き、佳子(よしこ)の顔を殴りつけることで解消している。
佳子(よしこ)は、美しく成長した門前家の妹の理沙に300万円で買い取られ、門前家の家政婦として働くようになる。
何のために理沙が、桂子を家政婦にするのか、その恐ろしい魂胆が分かって来ると、じわじわと怖くなる。
佳子は姉妹に殺されることになるのだが・・・次回おろち(2)でその理由を述べる。
成長した姉妹の執念と裏切りはお互いに執拗であり、すさまじいバトルが繰り広げられる。


美少女おろちは、門前家に忍び寄り、佳子を陰で見守っている。
1歳違いの姉妹の一草と理沙は27歳と28歳になっていて、容姿が化け物のように崩れる29歳は目の前にきている。
門前家の玄関から中に入ると中央に2階に上がる美しい階段があり、絨毯が敷かれ、その上に母親と子供が戯れる絵画がかけられている。
美少女おろちは、絵画の母親の目に自分の目を植え付け、玄関の部屋で繰り広げられる光景を見ることができるようにする。
絵画の女性の目だけが、きょろきょろと動くさまは、お化け屋敷の見世物を思わせる。
おろちが颯爽と超能力を発揮する前後に、どこからか吹いてくる風に髪があおられて美しい。
母の葵が亡くなる前に、妹の理沙に告げたことがある。

姉 一草 (木村桂乃)
おろち 姉.png

妹 理沙(中越典子)
おろち 妹.png

そのことによって、姉妹は2人とも生き地獄を味わうことになるのだが・・・・・
詳しくは~おろち(2)へ続く~

楳図かずおのコミック「おろち」は1巻~4巻(小学館)まであり内容は8話。
コミックでは、顔面や体中にできものができるのは、18歳を過ぎてからになっている。
映画の29歳の方が18歳よりも、あでやかになっていて、美貌が崩れていくことに対しての抵抗もすさまじい。
映画「おろち」は、その中の1巻の「姉妹」と4巻の「血」をミックスさせて作られ、脚本は、「女優霊」「リング」などを制作した高橋洋監督が手掛けている。

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